相続人が相続の手続きの最中になくなってしまった場合、相続はどうなるのか
2024.06.01
相続の手続き中に相続人が亡くなってしまった
今、社会は高齢化が進んでいて、日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳となっています。財務省によると、相続が発生した時、年齢80歳以上の被相続人は1989年には約4割でしたが、現在は約7割に増加しています(財務省主税局調べ)。被相続人の高齢化とともに相続人の高齢化も進んでいます。父が亡くなった後に母も後を追うようして亡くなってしまった、というようなことはよく聞く話です。相続が発生した直後に相続人が亡くなるというケースは今後ますます増えていくかもしれません。
では、相続の手続きが全て完了する前に相続人が亡くなってしまった場合、その相続はどうなるのでしょうか
数次相続とは
遺産分割や相続登記等の手続きを行う前に相続人の1人が亡くなって、新たにその亡くなった相続人についての相続が始まったときのことを「数次相続」と言います。
例えば、父親が亡くなって、相続が発生し手続きを行っていたが、手続きが完了する前に父親の相続人となった母親が亡くなってしまい、母親についての相続も発生した、というような場合に数次相続となります。数次相続では、1つ目の相続手続きに並行して2つ目の相続手続きも行うことになります。1つ目の相続を「一次相続」、2つ目の相続を「二次相続」と言いい、上記の場合では、父親の相続が一次相続、母親の相続が二次相続となります。場合によっては、三次相続、四次相続と起きる可能性もあります。
数次相続が起きたら手続きはどうなる?
数次相続が起きた場合の処理について、事例別に考えてみたいと思います。
相続の手続き中に亡くなった相続人に配偶者と子供がいるとき
「数ヶ月前に母親が亡くなった。父親は数年前に既に亡くなっており、相続人は長男、二男、三男の3人である。しかし手続きが終わる前に相続人である長男が亡くなってしまった。長男には妻と子が1人いる。」
このような時、最初に発生した母親についての相続が一次相続、次に発生した長男についての相続が二次相続となります。
一次相続では母親が亡くなって、長男、二男、三男の3人が相続人となり、母親の遺産は3人に3分の1ずつ相続されることになります。
しかし、相続人である長男が、手続き完了前に亡くなってしまい二次相続が発生しました。このとき、長男が相続するはずであった母親の遺産は長男の相続人に承継されることになります。
長男の死亡により発生した二次相続では、妻と子が相続人となります。この場合の相続分は配偶者と子でそれぞれ2分の1ずつとなるので、長男が相続するはずだった母の遺産は、妻と子が2分の1ずつの割合で相続します。結局、一次相続の被相続人である母親の遺産は、長男の妻が6分の1、長男の子が6分の1相続することとなります(もし子が複数いた場合は、6分の1の遺産を子供の数で均等に分けます)。もちろん同時に長男本人の相続手続きも行うことになります。
子の死亡により相続人となった親が亡くなったとき
相続人となった父母や祖父母といった直系尊属が相続の手続き中に亡くなった場合を考えてみましょう。
「数ヶ月前に長男が亡くなった。長男には妻はいるが子はおらず、妻と母親が相続人となった。しかし先日、相続の手続き中に母親が亡くなってしまった。長男には弟が2人いる。」
このケースでは、長男についての相続が一次相続、母親についての相続が二次相続となります。
一次相続では、長男の妻が遺産の3分の2、長男の母親が遺産の3分の1を相続します。
しかし、手続きが終わる前に母親が亡くなってしまったため、長男から相続するはずであった遺産は、母親の相続人となる二男と三男が2分の1の割合で相続します。結果として、長男の遺産は二男と三男が6分の1ずつ相続することになります。
このように相続人が一度得た相続人としての権利は、その相続人の死亡により消失するのではなく、亡くなった相続人の相続人に引き継がれるのです。
そして、手続きは、一次相続の手続き、二次相続の手続き、と段階を追って行っていくことになります。
遺産分割協議には相続人全員が参加しなければならない
亡くなった方の遺産をどのように分けるかを話し合う手続きを遺産分割協議と言います。協議には相続人全員が参加し、全員の合意に基づいて遺産分割協議書を作成しなければなりません。そのため、協議の途中で相続人の1人が亡くなり二次相続が発生した場合は、最初から手続きをやり直さなくてはなりません。そして協議は、新たに亡くなった相続人の権利を引き継いだ相続人を含めて全員で行うこととなります。数次相続が発生すると、相続人が増えて手続きが複雑になってしまうのです。
手続きが複雑になる前に処理をしましょう
遺産分割協議前や途中で相続人の1人が死亡すると相続人が増えることとなり、相続の手続きが複雑になります。場合によっては、1度も会ったことのない人が相続人になる可能性もあり、相続の手続きが長期化したり、トラブルが起きてしまったりすることもあります。手続きが複雑になる前に処理をすることが望ましいですが、数次相続となり複雑化してしまった場合には、司法書士等の専門家に相談することも考えましょう。